2015年1月27日火曜日

発売直後・『別冊群雛 (GunSu) 2015年 02月発売号(1周年記念号)』レビュー!!

はーい、恒例月末群雛レビュー。今回はなんと2冊『2月号』と『別冊1周年記念号』同時刊行。


では、別冊の方のレビューから。

ほんと、みんな読んでてすごく楽しかった!! で、この内容でこのお値段!
すごく読み物としてコスパも戦闘力も高いと思う。


■「エブリデイ・アニバーサリー」 晴海まどか
 今回とくに驚いたのが晴海さんのこの作品。いつもほんと力あるなーと思ってたけど、今回、正直、化けた?と思った。嬉しい驚き。
 作家って、すごく作品のステージがドンッ!と上がる時があるのね。レベルアップというか。
 私のことを脇に置いて上から目線みたいですまないけど、今回、地の文にものすごい安定感がある。これ、実は前から書けてたのかな?だとしたらこれまでよほど羊の皮かぶってたのかな?と驚くほど。
 すごく風味よくしっとりしてて、モチーフ通りに書けてるんで、モチーフの選び方も違うからとはいえ、私にとってはすごい発見だった。
 前からかけてたらこっちの方がさらに私の個人的好みなのもあるけど、でもそれにしては際立って圧倒的な懐の深い文体になってると思う。
 構成も描写も深い。あの素敵なキャッキャウフフの世界のあとがこうなるのか、と思うと、作品世界が広くていいなと思う。奥行きがドン!とあったのがばっと世界観で見える感じ。そう広がった気もするし。これもいい。
 力あると思ってたけど、さらに力が出ててすげい。上から目線で書いてほんとすまないけど。
結びもいい。そうだよねと思う。あと、SF要素を途中に入れたのも正解だと思う。良い使い方。こういう読み切りで話をどんと広げるには若干のSF要素入れるのは正しいと思う。それを渋めに全体と調和させるのはまた難易度上がるけど、それも成功してると思う。
 この強化された地の文の感じの上にいつもの『キャッキャウフフ』な感じの学生とか中高生年代を書ければ、さらに鮮やかになるな、とすごい期待も持ってしまった。作品のモチーフが変わって文体が変わっても、地の文の息遣いとかは活かせるはず。それがすごく楽しみ。


■「愛の断想」 君塚正太
 これは、ほんと、作家の成長論になってる。憧れてる段階から進んでいく姿で、愛で切なく盛り上げていく。
 書き手って、縁とか運とかでどんどん育ってく。まず運に気づく運を拾って、さらに運に気づいて運を拾う。そのサイクルに乗れるかどうかが第一のハードルなのね。運命というか幸運というか。それは記念に値する出来事だよね。納得。
 未熟時代を描く作中作がちゃんと未熟な書き手の特徴掴んでるのも、ちゃんとそれ意識して乗り越えてる作者の安定感と思う。安定してるから、最後がすごく効いてるのね。
 でも、普通はこれ、こういう演出は書き手としてはほんと、冒険だと思う。だって、作中作と作品全体を書き分けるのはちょいしんどいし、作中作を過去の自分の習作流用するという方法もあるけど、それは現実にはなかなかできない。習作時代の自分を解体して、自身の書き手としての自信を試すという挑戦だもん。それで成功してるから、さらに自信持って書いていけると思う。というか書いてほしいと思う。



■「普通の凡退」 和良拓馬
 すげえ。
 昨日(1月17日)、とあるスポーツの観戦してきたのもあるせいか、ジャストミート!!まさにグッジョブである。
 この人のスポーツもの、すごく素敵でにいいんだよね。とにかく私の好み。今回特に好み。抑えめなな感じだけど、あっ、これ、あのことなんだ! と思ってからの高低差がすごい。
 ほんと、話ってのは、鉄道模型のジオラマ造りで学んだんだけど、「高低差」が出来を決める。メリハリだとよくわかんないかもだから書くけど、鉄道模型のジオラマで言うなら、鉄橋はすごく高いのがあって、さらにトンネルもあったほうが見てて明らかに楽しい。地形に起伏、立体感がでて、、走る列車の姿の変化も大きくなってジオラマの面積の狭さが気にならなくなる。それを走る列車に、まるで急峻な地形に挑むかのような躍動感、息吹が出る。
 逆に、なんの谷も山もないと、ジオラマがただの板に見えて、面白さがほとんどなくなってしまう。ただ線路置いただけに見えてしまうし。つまんなくなるのね。
 そこで起伏をつけると、結構辻褄が合わなくなるので難易度は上がるけど、やると絶対に見る方は楽しい。
 その起伏を作るためには、まず地平面をぐっと持ちあげておく必要がある。土台の上にそのまま作ったら谷が作りようがない。そこで、ジオラマでは板を敷いて地平面をガンと持ち上げて、そこから谷を掘る。
 で、この作品はそれがすごくできてるのね。この日がどういう日であるのかをすごく抑えめに書いてるけど、読むほうがそれがわかった瞬間、ああっ、と思うほどの深い谷ができて、すごく心に迫る。そこからはグイグイ引きつけられてしまう。ほんと、モチーフ選びのところですでに大勝利だけど、それをこぼさずに「決めた-っ!!」ッて感じ。
 最後まで引きつけられるし、終わりもまたシブい。秀逸。うまい!!
 
 
■「赤い猫」 夕凪なくも
 別冊群雛、本誌と感じが違うのが、みんな、いい意味でさらにチャレンジングだし、いい意味でさらに「無理しよう」としてるのがいい。まあ、テーマ縛り付きなんで、挑戦だし難易度高いのは当然だけど、ほんと、それでみんな、自分の限界に挑戦してるのが、すごく読んでてわかる。それがすごく素敵なのね。
 ほんと、攻めてる。みんな、ほんとにただの安全牌選ばなかったのがいい。そう思う。
 で、この作品はほんと、自分に無茶振りしてると思う。記念日でミステリ。ミステリで記念日というのはなかなかしんどいと思う。とくに動機の面でネガティブになりがちだし。
 でも、これ、そのネガティブになる危険に自分からどんどん飛び込んでいっちゃうのね。恐れずに。それがもう書き手としてカッコいいと思う。
 そのネガティブさ、ビターさ、ダークさをどうするか、興味深く、そしてハラハラしながら読んだ。私的にはスリリングだったけど、最後、なるほど、と私は思った。いい意味で裏切られたので、挑戦は成功だったと思う。推理は読み手を裏切ってなんぼだよね。ホント。

■「症例フェリックス」 絵空
 これも、実に攻めたなー、と思う。サイコホラーでガンガンに読む方を揺さぶってくる。揺さぶりガンガンかけてくるし、難易度もあげて、読者に挑戦してる。
 読者にサービスすることと、読者に媚びることは違うんだけど、これは媚びないし、中途半端なサービスしないことで、すごくロジックモンスターみたいなキャラクターと読者ががつーんと対決するように構成してる。
 このモンスターに勝てるか。結婚記念日というベタなモチーフなはずのに、全然ベタどころか攻めまくり。
 このモンスター、私には正体はなんとなくわかるけど、それはここには書かない。あとで作者にこっそり聞く機会があれば、その正体の答えがわかると嬉しいかも。それぐらいモンスターだもんね。悪役が作品の善し悪しを決める、もセオリーなんだけど、ほんとモンスターがモンスター。

■「決めた日」 神楽坂らせん
 うぐぐ、これはもう「らせんの挑戦状」状態。目一杯挑戦してる。でも往年の伝説のゲーム「たけしの挑戦状」は酔っ払ったビートたけしの思いつきを真に受けてゲームにしちゃった、という話があるけど、これは思いつきじゃない、精密に狙って読者に謎を突き付けてくる本当の挑戦。
 で、正直、私はその謎が解けなかったのね。謎の存在はわかるけど、その時点で難易度高いなあと思う。でもヒントがあちこちにあるのはわかるというか、全部ヒントだし、実際、これ、小説の形したクイズだよね。それもゲームブックとかそういう次元のものじゃない。確かにこういうのあんま見たことないなあ。
 強いて言えば、ウンベルト・エーコ先生が日本のゲームカルチャーにはまってたらやりかねないような感じ。攻めてるなあ。
 で、その謎が、作者の中でも作者がぶれてて謎だったり、問いとしてアンフェアっぽかったらすぐわかるのに、それがないのね。フェアにヒントを小説の形で出してるっぽく見えるから、なおさら解きたいのね。で、解けないから、すごく悔しいの。
 こりゃしんどいなー。難易度的には国家公務員1種採用試験の判断推理の問題ぐらいありそう。
これだと私は解けないと投げちゃうか、あとは「若干、イメージをつなぐ語の形式の形変換に甘さがあるかもで、回答が一意にならない可能性を孕んでるかも」って完全に負け惜しみでいうしかないもんなあ。
 ほんと、すごい意欲作であるのは間違いない。これが素直に誉めたようになってないようのなってしまったのは、問いにがっちり答えられない私が悔しいから。うぐぐ。すごく悔しい、キー!! というわけで狙いは成功してると思う。まさに挑戦状。問題作の看板に偽り無し。ぐぬぬ。

 ちなみにあとで聞いたら、とある作家の文体も研究したものであったらしい。ううむ、これも私の不勉強である。挑戦されて私は降参である。参った。完敗。


■「邪気眼は定年に隠る」 小林不詳
 おおー、記念日モチーフに伝奇小説!! しかも前回作よりすごく安定感が増して、その分、活劇の部分の演出が格段にシャープで雄弁になってる!
 しかも伝奇SF、さらに山田風太郎先生ばりの仕掛け!
 邪気眼というモチーフがこんなに仕掛けに発展とは。すごい。
 で、そのアイディアもいろんな文章上の安定感のおかげで、ぐっと引き立ってる。うまい!
 前に私が小説ではプログラミング言語の変数型の変換のようにイメージの変換をかなり意識しないと、と書いたけど、ほんとかっちり変換してる感じ。だから以前のに比べても、格段に読みやすいし。
 ラストもほんと、よくできてる。
 力の限界に挑戦して、限界をさらに高めることに成功してると思う。というか、これも以前拝見したのからすると「化けた」と言ってもいいかも。前のも良かったけどね、さらにいい。

■「記念運転」
 これは私の。で、挑戦は、というと、私的には…すまん、前からやってる「電車ごっこを大人げなくやって作る鉄道模型小説」なのね。だから私としてはあんま挑戦じゃないけど、でも群雛にこういう趣味バリバリのものを載せてしまうところが挑戦だったかな。スマヌ…。
 でも、模型で自動運転のプログラミングしながら、機械が奪っていく人間の仕事の現状と、それを人間が本当はどう受け止めるべきなのか、そしてそれが代わる記念日と、記念日の記念運転が、ただの栄誉じゃない、ってことを書いたの。…すまん、こう自著解説してる時点で負けだよね…芸人が自分の笑いを説明してるみたいで。
 負けついでに書くけど、これ、実は意識してるのが、電子書籍時代になって仕事奪われると思っている人たちに対しての応援歌の気持ちも入ってるの。こういう時代でも、がんばっていきまっしょい、って。

■表紙
 素敵だなあ。ほんと、群雛の表紙っていつもみんな素敵なの描いててありがたい。今回は記念日というものについての解釈がまず素敵なのね。で、それを物語性が強いレイアウトにしてる。で、それがわかりやすくてさらにいい。アイディアもいいし、画力も遺憾なく発揮されてる。色合いもまた上品だねえ。ポップな感じも素敵。インタビュー読むとまた深みがわかって楽しい。「無いものは作る」っなったのは私もです。て、うちのブログ名も「なければ作ればいいじゃん」なので、仲間だなーと思ってしまった。

■あとがき
 晴海さん、おつかれさまです。ほんと、そうですよね。この群雛のおかげで、読者をよりいっそう意識できたのは私もです。いろいろ他にも、おんなじこと考えてたんだなーと思ったり。そうですよね。群雛はほんとありがたい存在です。編集さんとしてもほんとお疲れ様でした。というか、私、いつもいちばんお世話になっちゃってる…スマヌ。

 竹元さん、わかるなあ。ググって分かることなんてごく一部だもんね。『ネットは広大だわ』といっても、ネットにある情報ってのは、未だに『誰かが書いた原稿』だもんね。バイアスは絶対にある。だったら直に会っちゃったほうがまだまだ情報量としては優位。でも、ネットで済ませられることを済ませた上で会うと、さらにいいよね。

 鷹野さーん、1周年おめでとうですー!&おつかれさまです! で、次の話って…ガクブル。行かないでー、私を置いて行かないで-(三浦あずさ(アイマス)の声で) 冗談。次のステップに行ったほうがいいのは間違いないと思う。特に今回の別冊みてて、そう思った。次のステージが楽しみ。……私、そこに一枚これまでみたいに噛めるのかなあ…。まあ、できなくても、応援したいと思う。


 というわけで『別冊群雛02月発売号(1周年記念号)』は発売中です。よろしく!

 こちらからどうぞ。>> 刊行リスト:群雛ポータル

 (ちなみに02月号も発売になってるのと、創刊号が値下げされてますので、よろしく)


(タイマーによる更新です)

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